欧州会計検査院(European Court of Auditors)の概要
平成29年1月30日
1.地位
EC機能条約(欧州連合の機能に関する条約)に規定されているEUの外部会計検査機関。
2.沿革等
1975年設立。
本部はルクセンブルク。
マーストリヒト条約(1992年):欧州共同体(EC)の機関となり、独立性と権限が強化され、年次報告にDAS(保証証明(Statement of Assurance))が添付される。
アムステルダム条約(1997年):EUの1機関として認められ、正式にEUの第2(対外・安全保障政策)及び第3(司法・内務政策)の柱が検査対象に含められる。役割は、合規性及び不正撲滅対策が強調。欧州会計検査院の権限について、欧州司法裁判所に付託することが認められる。
ニース条約(2001年):加盟国から各1名の検査官で構成される。分野等によっては検査官全員で構成される検査官会議ではなく(一部の検査官による)検査官小会議でも採択可能に。欧州会計検査院と加盟国会計検査院との協力の重要性が強調。
リスボン条約(2007年):検査対象に、「すべてのEU機関」に加え、「部局及び行政法人(agency)」が明示される。
3.条約に基づく権限
EC機能条約(欧州連合の機能に関する条約)第285条~287条に欧州会計検査院の権限及び構成が規定。
・EU並びに特に規定のない限りEUが設立した機関、部局及び行政法人(agency)の全ての歳入・歳出を検査。
・全てのEUの歳入・歳出が合法的に行われているか、予算管理が(経済性、効率性及び有効性の観点から)適切かどうか検査。
・毎年、EU予算の信頼性及び執行の合規性に係るDAS(保証証明)を添付したEU予算の執行についての検査結果が盛り込まれた年次検査報告を作成。
・特別検査報告の形で特定の項目に係る検査結果を随時発表することができる。
・検査業務で発見された不正行為又は詐欺の疑いのある事案を報告。
・予算分野に係るEU立法に対する意見提言。
・不正行為撲滅に係る措置に対する提案に関する相談に応じる。
・検査報告や意見の発表を通じてEUの予算執行に関する統制力を行使する欧州議会の支援。
欧州会計検査院は司法権限を有せず、欧州会計検査院の検査報告や意見は法的拘束力を有しない。
4.組織・構成
<会計検査院長>
欧州会計検査院は、検査官が互選で決定した会計検査院長を長とする。
任期は3年で再任できる。
役割は、検査官の中の首席であり、検査官会議の議長を務め、会計検査院の決定が実行され、会計検査院及びその活動が健全に運営されることを保証すること。
対外関係を代表する。
国際関係部門及び法務部門に係る責任を有する。
<検査官>
加盟国から各1名の検査官で構成(計28名)。
各加盟国による推薦に基づき欧州議会への諮問の後にEU(閣僚)理事会で指名。会計検査院での勤務経験がある者か特に能力を有する者の中から選出。
任期は6年で、再任することができる。
EUから完全に独立しEU全体の利益の下で職務を行うことが求められる。
年次検査計画で明示された検査業務を執行する責務。
当該業務のため専門的な検査スタッフの支援を受ける。
<事務総長>
欧州会計検査院により指名された最高位の事務官。
研修、通訳業務を含めた職員及び運営の管理に係る責任を有する。
欧州会計検査院の事務局の責任者。
<人員>
欧州会計検査院は、調査官、通訳及び事務補助者で構成された約870人(2015年現在)の職員を有する。
<内部組織>
欧州会計検査院は、検査官の多数決によって検査報告及び意見が採択される合議体として運営される。
検査官会議は意思決定機関であり非公開。
自ら組織運営に係る規則を策定。
5つの検査グループがあり、各グループに検査課がある。各検査官は、検査グループに割り当てられる。各グループは、上席検査官(Dean)が代表する。
グループ1:自然資源保全・管理
グループ2:構造政策、運輸、エネルギー
グループ3:対外援助
グループ4:歳入、調査研究、域内政策、EU機関・団体、EU機関及び団体
CEAD((横断)調整、評価、保証、開発)グループ:保証証明の調整、検査の品質管理、検査手法の開発
上席検査官は、検査グループの検査官によって選出される。任期は2年で再任できる。上席検査官は、他の検査官の同意の下、検査グループの円滑な運営を行う。
会計検査院長及び上席検査官で構成される管理委員会(Administrative Committee)があり、同委員会は、欧州会計検査院の正式な決定を必要とする管理事項についての責任を有する。
院内の内部検査を実施するために内部調査官が存在する。
5.検査
欧州会計検査院は、独自の検査方針及び基準に従って検査を実施。この基準は一般に公正妥当と認められている国際基準(特にINTOSAI会計検査基準及び国際会計士連盟が公表する国際監査基準)をEUの体系に適用している。検査業務は次のとおり。
・定期的な検査業務。条約に従い、毎年実施することが求められる。この中にEU、欧州開発基金及びEUが設立した機関の決算書の検査が含まれる。
・選定した検査業務。欧州会計検査院が、詳細な検査を実施する上で特別に関心を持っている予算分野又は管理事項を選定する。
6.検査サイクル
(1)計画
(2)実行
(3)報告
・年次検査報告:EUの一般会計及び欧州開発基金の執行に係るDAS(保証証明)、その他の結果。
・特別年次検査報告:各EU機関に関する報告
・特別検査報告:特定の予算・管理分野に係る詳細な財務検査及び業績検査の結果に関する報告
・意見:財政的な影響を伴う規定の新設又は修正に係る欧州会計検査院の意見
(4)年次免責(discharge)手続
(免責実施機関(欧州議会)は、予算執行に対して免責するか否か決断(決算の承認に相当))
(5)フォローアップ
7.SAI(最高検査機関)との協力
条約に、欧州会計検査院と加盟国SAIは各々の独立性を維持しつつ信頼の精神で協力することが明記され、欧州会計検査院が加盟国を訪問して検査を実施する際、SAI及び各国の会計検査機関と協力して行うこととなっている。(年次検査計画を加盟国SAIと協議、欧州会計検査院の加盟国における会計実地検査の情報も共有、連絡委員会の年次会合を実施等)
欧州会計検査院は、INTOSAI (2004年からメンバー)やEUROSAI(1989~)の活動に参加している。