欧州会計検査院(European Court of Auditors)の概要
令和7年9月23日
1 地位
EU機能条約(欧州連合の機能に関する条約)に基づく、EUの独立した外部会計検査機関
2 ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)
【ミッション】
独立した専門的かつ影響力のある検査活動を通じて、EUの活動の経済性、有効性、効率性、合法性及び合規性を評価し、説明責任、透明性及び財務管理の改善を図ることを使命とする。これにより、EU加盟国民からの信頼を高め、EUが直面する現在及び将来の課題に効果的に対応する。
【ビジョン】
公的部門の会計検査において最先端を占めるとともに、EUが自らの基盤とするところの価値観を堅持し、より強靱で、かつ持続可能となるような貢献を目指す。
【バリュー】
独立性(Independence)、誠実性(Integrity)、客観性(Objectivity)、透明性(Transparency)、専門性(Professionalism)
3 沿革
1975年設立。
本部はルクセンブルク。
マーストリヒト条約(1993年発効):EUの機関として、欧州議会、EU(閣僚)理事会、欧州委員会と同等の立場に置かれ、独立性と権威が強化。また、EUの会計についての年次保証証明を行うこととされた。
アムステルダム条約(1999年発効):検査権限が政策領域にまで拡大するとともに、不正撲滅における役割も制度化。他のEU機関に対する欧州会計検査院の権限を保護するため、欧州会計検査院による欧州司法裁判所への提訴機会を拡大。
ニース条約(2003年発効):加盟国から各1名の検査官で構成される。欧州会計検査院と加盟国会計検査院との協力の重要性が強調。
リスボン条約(2009年発効):検査対象に、「すべてのEU機関」に加え、「部局及び行政法人(agency)」が明示される。
4 条約に基づく権限
EU機能条約第285条~287条に欧州会計検査院の構成及び権限が規定。
・EUの全ての歳入・歳出を検査。また、他に特別の定めがない限り、EUが設立した全ての機関、部局及び行政法人(agency)の全ての歳入・歳出を検査。
・全てのEUの歳入・歳出が合法的かつ規則に従って行われているか、財務管理が健全に行われているかを検査。この際、特に不正事例について報告。
・毎年、EU予算の信頼性並びに執行の適法性及び合規性に係る保証証明を行い、年次検査報告に添付。
・特別検査報告の形で特定の事項について検査結果を随時発表可能。
・EUの他の機関からの要請に基づき意見を表明できる。
5 組織・構成
<会計検査院長>
検査官が互選で決定した会計検査院長を長とする。任期は3年で再任可。
検査官における「同輩中の首席」であり、検査官会議の議長を務め、会計検査院とその活動の健全な運営を確保する。
対外関係を代表する。
<検査官>
加盟国から各1名の検査官で構成(計27名)。
各加盟国による推薦に基づき欧州議会への諮問の後にEU(閣僚)理事会で指名。会計検査院での勤務経験がある者か特に能力を有する者の中から選出。
任期は6年で再任可。
EU加盟国やEUの他の機関から完全に独立し、EU全体の利益のために職務を遂行。
27名の検査官が5つの検査局のいずれかに配属され、各局の検査を主導し、検査局又は欧州会計検査院全体として検査報告を作成する責任を負う。
<事務総長>
欧州会計検査院により指名された最高位の事務官。
任期は6年で再任可。
欧州会計検査院の事務局の責任者として、職員管理及び欧州会計検査院の運営に責任を負う。
<人員>
欧州会計検査院は、調査官、通訳及び事務補助者で構成された約900人(2025年現在)の職員を有する。
調査官は、官民両部門で、会計、内部・外部監査、法律、経済学等の幅広い専門的経歴と経験を有する。
<内部組織>
欧州会計検査院は、検査官の多数決によって検査報告及び意見が採択される合議体として運営される。
検査官会議は意思決定機関であり非公開。
自ら組織運営に係る規則を策定。
5つの検査局(Chamber)があり、各検査官が、各検査局に割り当てられる。各局は、上席検査官(Dean)が代表する。
第1局:天然資源の持続可能性
第2局:結束性、成長及び統合への投資
第3局:対外的活動、安全保障及び司法
第4局:市場規制及び競争的経済
第5局:EUの財務及び管理
上席検査官は、検査局の検査官によって選出される。任期は2年で再任可。上席検査官は、他の検査官の同意の下、検査局の円滑な運営を行う。
会計検査院長、上席検査官等で構成される管理委員会(Administrative Committee)は、欧州会計検査院の管理事項、戦略、作業計画等について決定。
6 検査
欧州会計検査院は、最高会計検査機関国際組織(INTOSAI)が策定する最高会計検査機関国際基準(ISSAI)等をEUの体系に適用させた上で検査を実施。検査業務は次のとおり。
・保証検査(The statement of assurance audits):EUの会計の信頼性や、基礎となる取引の合規性についての年次の財務検査及び準拠性検査。検査では、統計的にサンプリングした取引の検証と、監督・管理制度の評価を通じて、収入と支出が正しく計算され、法令に準拠しているかどうかを確認。
・業績検査(Performance audits):EUの歳入歳出の質、及び健全な財政運営の原則が適用されているかどうかを検査。EU機関等の事業、運営、管理制度、手続を検証し、それらが資源の経済性、効率性、有効性を達成しているかどうかを評価。
7 検査サイクル
(1)計画:複数年戦略の形で、長期的な検査目標を設定。また、翌年の検査内容や検査への投入資源を計画。
(2)実行
(3)報告
・年次検査報告:年次の財務検査、準拠性検査の結果。保証証明も含まれており、欧州議会が年次免責手続(下記(4))に利用。
・特別年次検査報告:各EU機関に関する年次財務検査の結果。
・特別検査報告:特定の支出や政策分野についての、業績検査及び準拠性検査の結果。
・意見:他のEU機関の要請に応じ、EU財政に影響を与えうる規定の新設又は修正について意見。
(4)年次免責手続(annual discharge procedure)
(欧州議会が、EU予算の執行に対して免責するか否か決定(決算の承認に相当))
(5)フォローアップ
8 各国の会計検査院との協力
EU機能条約に、欧州会計検査院と加盟国会計検査院が各々の独立性を維持しつつ信頼の精神で協力することが明記されている。欧州会計検査院が加盟国を訪問して検査を実施する際、加盟国会計検査院等と協力して行うこととなっている。
また、欧州会計検査院と加盟国会計検査院の長で構成される連絡委員会(Contact Committee)において、対話・協力の促進や連絡や知識・経験の共有が行われている。
さらに、欧州会計検査院は、最高会計検査機関国際組織(INTOSAI) (2004年から正式メンバー)やその欧州地域機構(EUROSAI)(1990~)の活動に参加している。